果てしなき帰途の果に

yoakeroの雑文コーナー

『ファウストVol.6 SIDE-A』

ファウストvol.6 SIDE-A』の全感想。長いので隠します。



《小説》

特集「新伝綺リプライズ」の一つ目。voi.3に掲載された前作よりも、このシリーズの設定とか伏線が語られています。そのせいか、前作よりも読みやすいし面白い気がします。物語自体は、これから面白くなりそう、というところで「次号へつづく」になっているのですが、読むのが退屈にはなりませんでした。良い意味で、奈須きのこの長所が発揮されていたのだと思います。設定や伏線で読者の興味を引いたり、あとは非日常に属する人物の日常を面白く描写したりとか。そういう部分が面白いと思います。話自体は、後編を読まないとなんともいえないですが、わりと後編には期待しています。

  • 文/竜騎士07・絵/ともひ「怪談と踊ろう、そしてあなたは階段で踊る」

新伝綺リプライズ」の二つ目。感想を回ってみると、タイトルが酷いといわれていますが、僕は好きですよ、こういうセンス。「隣室は刑事」とかの安易な章題も。内容は、『ひぐらしのなく頃に』のような趣きのホラーです。この手の話を書かせたら、この人は本当に上手いですね。とても面白く読めました。後編にも期待しています。
あ、そういえばこの話って舞台が『ひぐらし』と同じ鹿骨市なんですね。同じ市内というだけのようですが。中学生の娯楽の内容から考えて、時代も現代ではないようです。たぶん。『ひぐらし』と何らかの接点があるのか、それとも作者の好みなのか。もう一つ、余談ですが、「鹿骨市」って「ししぼねし」って読むんですね。ずっと「かこつし」って読んでいました。

新伝綺リプライズ」の三つ目。期待の大型新人という触れ込みでしたが、個人的には拍子抜けでした。「コンバージョン・ブルー」という名前の由来と、あと主人公が女の子の自殺を打算でもって止めようとするシーンは面白かったです。でもそれ以外の部分では特に引っかかるものはなかったのでがっかり。『ファウスト』で登場する新人であれば、「こんな小説を待っていた!」と思わせる作品を期待するところですが、この作品はその期待にこたえてくれませんでした。SIDE-Bで面白くなってるといいなあ。でもこれ、他の二作とちがって「前編」ではなく「第一話」になってるんですが、連載になるのかな? 
著者紹介では「美少女ノベルゲームのシナリオライター」と書かれていたのですが、正体は一体誰なんでしょうね。

Vol.5に収録された話の続編にあたる作品。巨大な組織によって作られた人造人間の内面を描いた話で、上遠野作品の中では割とありふれたモチーフ。しかし、vol.5のときもそうでしたが、ウエダハジメのイラストが今までの上遠野作品とはまた別の深みを与えているように思います。さすがに前回の主婦戦車にはインパクトで及ばないものの、袋いっぱいのケーキを持った舞惟のイラストからはなんとも言えない寂しさが感じられます。イラストを贅沢に見開きで使っているのも効果的だと思いました。あと、オチがとても好きです。それと、眼球。ついでに、上遠野とウエダハジメとの組み合わせを読んで、上遠野の作品はやっぱりイラストとの相性が良いなあ、と改めて思いました。上遠野自身はあまり意識していないんじゃないかとは思うけれど。

最近あんまり小説を書いていない気がする乙一の新作。今回の小説のなかではこれが一番面白かった。vol.2の乙一の作品の続編だけど、登場人物が同じなだけなので、別々の作品として読んでもいいと思います。吹き続ける風とか、空に舞い上がる風船とかそういう小道具の使い方から、本筋とは関係のないエピソードで人物の内面を説明するテクニックやら、技巧派乙一の本領発揮といった感じです。そして明るく健全な方向性を持った話で、いわゆる白乙一と呼ばれる作風。今までの著作の中でも、ベスト5には入ってくるだろう傑作。乙一ファンならこれを読むためだけでもvol.6を買う価値がある。……とは言い切れないか。ちょっと値段が高いものなあ、『ファウスト』は。

佐藤友哉ナインストーリーズ。元ネタの「笑い男」はけっこう好きな作品で、だからこれもとても楽しめました。「笑い男」でも「憂い男」でも、小さい頃に読んだら相当怖い話だと思ったんじゃないかなあ、と思う。

もしかしたら忘れてるだけかもしれないけど、元ネタの「愛らしき口もと目は緑」ってこんな内容でしたっけ? 話の展開が同じなのは覚えてるんですが、その内容は随分違うような印象があるんですが、単に僕が元ネタのほうの話を忘れてるという可能性が高いです。そのうち再読しておこう。それにしても、創士ってなんだかすごい苦労人な気がしました。

元ネタのほうもこの話も、さっぱりわからないのですが、どちらもとても面白い作品だと思います。でも何がどう面白いのか説明できないので、感想を書きようがありません。鏡家のキャラがいっぱい出てて楽しい、っていう面白さも確実にあって、それも重要なのですが、それ以外の部分が説明できない。

扉絵がなぜか今までのイラストの寄せ集めだったので、まさかと思ったのですが、案の定、今回は書き下ろしのイラストが一枚もありませんでした。これは本当に残念。本になるときはちゃんとイラストがつくことを願っています。内容に関しては、キズタカとりすかの関係ににやにやしながら読めばいいと思います。あとのこのシリーズは、毎回ある程度の山場を作って盛り上げてくれるので連載で読んでいて楽しいです。でもその楽しみには新しいイラストを見る楽しみも含まれているわけで、やっぱりイラストがついてない「りすか」は読んでいて寂しかった。

オールスター戦であってそれ以上でもそれ以下でもないと思います。戯言シリーズをキャラで読む人なら、この作品はかなり楽しめると思います。ジャージ姿のあの人とか、体操着のあの人とか、学生服のあの人とか、この頃はまだ生きてるあの人とか、まだ13歳のあの人とか。これほどにキャラで読ませる小説書けるあたり、さすがは西尾維新といったところか。あとメイド仮面という素晴らしいセンスを炸裂させてくれたことに僕は感謝したい。メイド仮面。馬鹿馬鹿しくて、素晴らしい。

今回は一気に六話も掲載されています。しかし、TAGROによるイラストがついているのは、そのうちの三作だけ。イラストーリーを標榜している雑誌なのだから、イラストはきちんと入れてほしい。全体的な感想としては、いつもどおりに一定以上の仕事をしていて偉いなあ、という感じ。では、簡単に各話の感想を。第11話「供養」いたい話。イタイイタイイタイ。第12話「ニート」オチはありふれてると思うけど、そこまでの流れもちゃんとしてるのでまあ面白い。第13話「集団自殺」オチで笑った。第14話「非暴力不服従」短さが原因ではあるけど、ラジオという小道具が活かされていないんじゃないかと思った。第15話「殺して良い日」オチがよくわからなかった。え、なんでそうなったの? 第16話「ニューメディアじいさん」いい話。最後にこれがあるおかげで、他の悲惨な話にも少し寛容になれた。


《カラーイラストーリー》

  • 絵/VOFAN「日光舞踏会」

巻頭にこれを持ってきたのは成功だと思う。光と空気の感じが気持ちのいい作品。
でもこの作品を気に入った理由の一番は、『ネコソギラジカル下巻』を読んだからかも。このヒロインって玖渚に似てるじゃないですか。まあ、それを置いても良い作品だと思います。

  • 絵/ヨシツギ「実験室」

目次だとこれの前に「彼女の透明なおへそ」が書いてあるけど、掲載順はこっちが先。本当に適当な目次だなあ。
全体的に毒々しい鮮やかさ、みたいな印象の4Pのカラーイラストーリー。理科の実験室の空気に溶け込んでしまう話。自分は無色なのに世界は色に満ちているというのは不思議ですね。

あ! これを書いててようやく気づきましたが、カラーイラストーリーって、ちゃんと物語を語ってたんですね! 正直、今までその部分を軽視してました。絵の綺麗さとかを見てたのですが、カラーイラストーリーというくらいなのだから、むしろ物語を見なくてはいけなかったのかもしれない。と今思いました。
で、「おへそ」の話。寂しいお話です。「透明になる」ってのがどういうことなのかわかりませんが、どういうことなんでしょうね。と考えてみたりして面白かったです。


《漫画》

内容はそこまでぶっ飛んでいないんですけど、でもやっぱ高密度の情報量はすごいなあ。でもこのサイズだと読むのが辛いんで、あんまり読み込めてないです。気が早いとは思いつつも、早く単行本になってほしいと願わずにはいられない。
とりあえずSIDE-Bに期待。

絵が可愛いのである程度面白いです。でも今回は話あんまり盛り上がらなかったので退屈でした。解決編は単行本ですか。あー、買ってまでは読まないなあ、たぶん。


《寫説》

歩きながら読んでいたので、よく覚えてないです。これはイラストではなく写真を使ったカラーイラストーリーと捉えていいのだろうか? 違うのかな。たぶんそうなのだと思うけど。けどこれは物語性が薄いですね。


《文芸批評》

相変わらず難しくて、よく理解できない。いまいち問題意識が共有できていないのだと思う。批評って書く側と読者の間で問題意識が共有できないと、伝わらないと思います。たぶん。

上遠野浩平について触れていたので個人的にとても喜ばしかったです。ぜひ、次回はもっと上遠野浩平について語ってください。で、肝心の内容ですが、やっぱりあんまり理解できなかったです。そのうち読み返したときには、もう少し理解できるといいな。


《特集企画》

  • 「EDITER×EDITER」

台湾版『ファウスト』の出版社の社長と、台湾版の編集長と、その編集部員と太田克史との対談。
何を話していたのか、意外と印象に残っていないのが不思議。台湾版にあまり興味がないのかもしれない。でも読み返してみたらわりと面白そうなことを話してる。台湾でイベントやるのはいいけどユヤタンとかは連れてかないで、僕が釣られかねないから。黄社長はすごそうな人。太田克史はやっぱり熱いなあ。
こんな箇条書きの感想になってしまったのは、台湾の出版社の偉い人が話しても、新潮の編集長が話しているときほどの面白さを感じないというか、単純にネームバリューの違いなのかなあ、と思った。もしくは、僕が流し読んでしまったのか。

  • 「『ファウスト』世界進出記念インタビュー・セッション」

東浩紀清涼院流水佐藤友哉西尾維新の豪華メンバーによる複合インタビュー。聞き手は台湾版『ファウスト』編集部。ぷらすあるふぁとして、Jの兄貴。
けっこう色々な話をしていて、上記のメンツに好きな作家がいる人は楽しく読めると思います。清涼院が一番大御所っぽい感じというか、話題が少なかったような気がしないでもない。あと、本文中に挿入されてる招き猫と達磨の写真は、少し邪魔くさい気がする。でも矢印のイラストは格好よかった。
ところで、太田編集長のガンダム愛とか「俺と一緒に風呂入れない奴は東京に強制送還する!」発言とかは本当に酷いと思いました。ガンダムとか、好き過ぎるのはどうかと思う。


《読み物》

  • 作/清涼院流水・絵/森山由海「イラストリック・シャッフル 毎絵並絵」

トリッキーだけど、こういう「遊び」っぽいものは好き。でもこれはたぶん、雑誌よりも相応しい表現媒体があると思う。楽しもうと思えばそれなりに楽しめる作品だと思うけど、果たしてこれを楽しんでいる『ファウスト』読者はどれだけいるのか。
ゲームとかに応用できないかな、このアイディア。


《コラム》

くだらないんだけど、やっぱりこれは面白い。でもほんとくだらない。

人生相談とかそういう主旨は放っといて、どこまでもどこまでも駄目な芸風で突き抜けていく滝本竜彦。っつうか現在進行形で未だに駄目な人生送ってるんだなあ、この人は。早く「ECCO」の最終話とか書いてほしい。

最初の一行に痺れた。さすが佐藤友哉だぜ!
ナイン・ストーリーズ」のオマージュとこんなエッセイだかなんだか分からないものを同じ雑誌に書いている佐藤友哉って、客観的に見たらすごい変わった作家ですよね。

連載初期のころのやつは何が面白いんだかさっぱりだったけど、最近のはけっこう面白い気がする。

乙女ロード」という言葉を初めて知った。短くまとまってるので読みやすいコラムでした。それほど興味あることでもないので、感想はそれくらい。


《レビュー》

まったくの個人的雑感だけど、ようやく武内崇の挿絵が、内容に馴染んできたような気がする。で、内容はいたっていつもどおりの上遠野節でとても楽しめました。
関係ないけど、「スティッキー・フィンガーズ」はジッパー付きのジャケットだったというのを知って少し驚きました。だからあの能力なのかあ、と。

  • 枕木憂士「もの思う葦」

これも段々、面白い気がしてきました。テーマにしてる映画作品に向き合うんじゃなくて、その周辺の現象だとか雑感だとかを書くっていう芸風は、映画レビューとしては反則気味な気がしないでもないけど、まあ掲載雑誌が『ファウスト』なんだからこのくらいいいか、と思わなくもない。


以上で、全感想終了。