果てしなき帰途の果に

yoakeroの雑文コーナー

乙一『小生物語』

小生物語

小生物語

正確にはエッセイではなくて日記って言ったほうがいいのかもしれない。著者が自分のHPで公開していた日記を本にしたもの。まえがきに「手抜きのオンパレード」とか「手抜きのオーケストラ」とか書かれてる通りの内容。脱力系といって褒められないこともないけど、手抜きのテキトーな内容であることには違いない。
ところで本書、日記といっても本当のことを書いているわけでなくて、ホラ話をかなり含んでいる。本当にあったと思えることでも、かなり脚色されて書かれているよう。日記の中で、著者は一人称を「小生」としているのだけど、そもそも「小生=乙一」ではない、とあとがきに書いてある。

「小生」という呼び方で日記を書いているうちに、まるで「小生」がただの人称ではなく、「小生」というキャラクターとして感じられるようになった。「小生」はまた、小説のキャラクターとも微妙に異なっていた。小説のキャラクターは物語内で動く架空の人物であるが、「小生」は日記を記述している架空の書き手なのだ。私でありながら私ではない、「小生」という名前を持たないだれかがそのとき生まれた。

このあたりの「架空の書き手である小生」の話が面白かった。自分でもやってみたいと思ったので、そのうち日記のほうで真似るかもしれない。
ここまで書いて、日記の中身についてほとんど触れていないことに気付いた。中身も面白いですよ。あんまり長くないし、さくっと読めるので。「ものすっご面白いよ!」という程面白いものでもないけど。読んでて笑う程ではないけど、ページはすらすらと捲れてしまう。脱力系というか、力が抜けてしまうような文章が好きな人には、向いてるかもしれない。

次回は、たぶん前回に予告した高橋しんの漫画だと思うけど、違うのをやるかもしれない。