果てしなき帰途の果に

yoakeroの雑文コーナー

星新一『未来いそっぷ』

未来いそっぷ (新潮文庫)

未来いそっぷ (新潮文庫)

一番最初に載っているショートショート「アリとキリギリス」を読んでびっくりした。あれ、星新一ってこんなに面白かったのか。
中学や高校の頃に星新一を紹介してくれた人は、ほとんど皆「オチが面白い短いSFをたくさん書いている人」と言っていた気がする。それを信じて一冊手にとって読んでみたら、確かにオチはまあ面白かったけど、その本の半分くらい読んだところでオチがない話があって、「何だよ、オチないじゃないか!」と僕は評判に偽りがあったことに憤りを感じてそれ以来ほとんど星新一を読んでいませんでした。よく考えてみると。
オチがないくらいで投げ出す僕もどうかと思うけど、星新一を「オチが面白い作家」として紹介するというのもどうかと思う。この本には勿論、オチの面白い話はあるけど、でもそれはほんの一部で、ほとんどは話の展開自体が面白いものばかりでした。
「熱中」のめまぐるしいスピード感と訳の分からなさが面白かったり、「ある夜の物語」は普通にいい話で感動したし、「不在の日」の登場人物たちの自論と説教の応酬は愉快だし、「おカバさま」は馬鹿馬鹿しいし、その他の話もとにかく面白いものばかり。オチがとかじゃなくて、話自体がとてもよく出来ていて面白い。星新一の凄さをようやく理解しました。
あと、「企業内の聖人」はすごく上遠野浩平っぽい書き方で、というか上遠野が星を真似たのかなあ、もしかして。と思った。